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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
 モテる人のエピソードはどうやら違うらしい。
「結果的に俺のせいでクラスの空気が悪くなって、それ以来、集合写真以外で女の子と撮るのは避けるようになった」
 どうやらなんともトラウマな話だったようで、貴博さんはさらに私をぎゅっと抱きしめてきた。
「だから、真白といるとすごく楽なんだ」
「……え?」
「今なら笑って話せるけど、あの写真のことで俺、すごい落ち込んだ。クラスの女子、全員とはさすがに勘弁して欲しいよな。『わたしのために争わないで!』っていう迷セリフがあるけど、まさしくその状態だったな。すごくいたたまれなかった」
 こういう場合って、『俺のために争うな』……なの? しかもクラスの女子、全員って……それはそれですごい。
「むしろ、好きな人になら、もっとべたべたして欲しい」
「それ、かなり無理」
 私の答えに貴博さんは安心したのか、腕の力を抜いた。額が肩に押し当てられていて苦しかったのが楽になった。
「なるほど、男ってのは追われるよりも追いかける方が好きなのか」
「…………?」
「今までずっと、女性に追いかけられる側だったけど、真白はそうじゃなかったから」
「そんな人、いくらでもいると思いますけど?」
 女性の肉食化が進んでいると言われているけど、みんながみんな、そうではないと思うのだ。
「そうだけど、なんと言えばいいのか。追われるのは嫌なのかもしれないな。でも、もし仮に真白に迫られていても、いや、迫られていたら、話はもっと早かったんだよな」
 言われて、私が貴博さんに迫る図を想像しようとしたけれど、上手く行かなかった。
「猫が番犬に喧嘩を売りに行く図……にしかなりませんでした」
 そう言ったら、貴博さんに笑われた。

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