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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
 小さい頃、といっても小学校に上がるまではあまり覚えていない。幼稚園に行って、帰ってきたら庭や畑で遊んでいたのはうっすらと記憶にあるくらいだ。
 小学生になると、放課後、家に帰った後に友だちの家に遊びに行ったり、うちに来て遊んだり、一緒に宿題をやったりと至って普通だった。
「今とあまり変わらないかも」
「外よりも家だった?」
「小学生の頃は外遊びばかりしていたような気がするけど、中学からは宿題と予習、復習に追われていて、あんまり遊んだ記憶がないかも」
「大人しかったんだ」
「大人しかったですね。友だちとわいわい話をするのは好きだったけど、恋愛話は苦手だったなぁ」
 だれがいいとか、だれが好きだとか、だれそれが付き合っているという話になると、そっと輪から離れるのが常だった。それは社会人になっても変わらない。
「真白もそういうのが苦手だったのか」
「苦手というか、あんまり興味がなかったと言った方が正しいかもしれないですね」
「確かにね。興味がないことを強制的に向き合わされるから、苦手意識が強くなったのもあるかもしれない」
 周りの女の子が積極的な子たちばかりだったら、そうなっても不思議はない。
「だけど俺は、真白だけ甘やかしてべたべたに愛したいと思っているよ」
「貴博さんっ」
 人が増えてきてざわざわしてきたとはいえ、どうしてそういう場所でそんなことを言うのよっ!
「あー、そういう初心な反応がかわいいなぁ」
「もうっ」
 恥ずかしいことばかりを言うから、私の顔は真っ赤になっていた。人がいるところでそんな恥ずかしいことを言わないようにという意味も込めて、コツンとテーブルの下で足を軽く蹴っておいた。
 そうしたら貴博さんは嬉しそうに笑っていた。
 もー、ほんと、恥ずかしい!
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