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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
 いつも以上にべたべたしてくると思ったら、私が淋しがっていることに気がついたからなのか!
「この部屋にもう来られなくなるのかと思ったら、淋しくなったんです」
「気持ちはすごくよく分かるよ。でも、俺と始める新しい生活をもっと楽しみにして欲しいな」
「楽しみにしてますけど……」
「それなら、記念にまたここでやるか?」
「もうっ!」
 なにかというとそっちに持って行こうとする貴博さんに突っ込みを入れようとしたら、するりと逃げられた。
「ほら、捕まえてみて?」
 いたずらっ子の顔をして貴博さんは両手を広げていた。
「捕まえてくれないのなら、俺から捕まえに行くぞ?」
 いつも捕まえられてばかりなのも癪だからと腕を伸ばして右腕を捕まえると、くるりと身体が回転して、背中に貴博さんの温もりを感じられた。
「真白から来てくれた」
 それがよほど嬉しかったようで、貴博さんは後ろからきついくらい、抱きしめてきた。
「真白が手を伸ばせば届く場所に俺はいるから」
「はい」
「あんまり構い過ぎるのも真白は嫌だろう?」
「そうですね」
「ヘルプを出してくれたら、すぐに助ける。そうなる前に助けるのはよくないって分かってるから。でも、見ていられなくなったら、手を出すよ?」
「はい」
 だれかがそばで見守ってくれているというだけでこんなにも気持ちが穏やかになるということを、それで初めて知った。
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