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第5章 幸せの誘惑（完）

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　新居の引き渡しがされる前にやっておかなければならないことがそれなりにあった。
　すぐに新居で生活を始められるように新しい家電を買いに行ったり、家具を見に行ったりした。
　幸いなことにここのところあまり忙しくなくて、定時に帰ることができる日が多かったため、じっくりと見て、選ぶことができた。
　仕事帰りにそうやってほぼ毎日出掛け、夕飯も帰ってから作るのが面倒だからと外食した。新しいお店を発掘できたりと楽しい。
　そうした日々で貴博さんに関して新たな発見がたくさんあった。五年の食事会を通して知っていたこともあったけど、一緒に日常生活を送って初めて知る出来事もあった。

　家電製品は一通りそろえたものの、足りない物はないかと確認のためにぶらりとお店を見て回った。そして、どうしようかと悩んでいた食器洗い乾燥機が安くなっていたため、半ば衝動買いのように買ってしまった。
　食洗機ってとても贅沢品だと思うのだけど、結婚しても共働きだから、あると便利だからと貴博さんが買うことに決めた。
「いいのがあってよかったな」
「そうですね」
　家電に関しては貴博さんなりのこだわりがあるらしく、あらかじめ調べて、複数候補を決めてから店頭へ足を運ぶ。そして店員さんに説明を求めてベストな品物を選び、値段交渉をする。女性店員だと貴博さんの顔を見て、頬を染めながら二つ返事で値下げしてくれるから嬉しいけど、なんだかなあと思うこともある。
「平日だと値切りやすくていいな」
「そ、そうですね」
「引いてる？」
「いえ、すごいなあと感心してます」
「安い買いものではないからな。値引きしてもらった差額で別の商品を買ったり、一つランクの上のものを選べるのなら特だろう？」
「そうですけど」
　私だったら予算内で買うか、目当ての商品が予算より高くても譲れない場合は仕方がないなと思いながら買うから、値段交渉をしようなんて思わない。
「照明も買ったし、後はなにが足りない？」
「洗濯機に冷蔵庫、電子レンジに食洗機まで買ってもらったので、思い当たらないですね」
「エアコンも型落ちだけどいいのが買えたし、必需品はそんなものか？」
「そういえば、貴博さんの部屋に置いている洗濯機はどうするんですか？」