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テンプテーション【完結】
第5章 幸せの誘惑(完)
     *

 引っ越しの前に、お願いしていた結婚指輪ができたと連絡が来た。
 完成品を早く見たいとは思ったけど、引っ越しが終わってからの方がいいような気がしたから我慢しようと思ったことを貴博さんに見抜かれてしまった。
「受け取ってすぐにしておけば、なくすことはないだろう?」
「結婚指輪って、式の時にお互いにするものではないんですか?」
「んー? どうなんだろうな? でも俺たちの場合は婚約指輪もなく、しかも婚約期間をぶっ飛ばしてすでに結婚しているから、しても問題ないと思うけど?」
 言われてみると、確かにそうだ。
「それに、なによりも俺は一刻も早く真白に指輪をしたいんだ」
 という貴博さんの並々ならぬ情熱? に絆されて、指輪を受け取りに行くことに。
 仕事が終わって、貴博さんとは駅前で待ち合わせた。
 そしてお店に行くと、サイズの確認をしたいからと言われ、戸惑っていると貴博さんに手を取られてその場でプレ挙式みたいな状態になって指輪をはめたのはかなり恥ずかしかった。
「真白、指輪はこのまま会社にもしていくように」
 貴博さんは私の手を両手で包み込んだままじっと見つめて、珍しく命令口調でそう言ってきたから戸惑った。
「え……でも、その」
「恥ずかしい? 色々言われるから嫌だ?」
「…………」
 貴博さんが言うようにそのとおりだったので小さくうなずいた。
 私の反応に、貴博さんはとても残念そうな表情を返してきた。
「真白が慎重で臆病なのは知っている。俺はそこが好きだけど、嫌いでもある」
 そうはっきりと言われ、ずきんと心が痛んだ。その欠点は自分でも分かっているし、嫌いなところでもあるからだ。
「周りの反応なんてどうでもいいだろう? 大切なのは自分の気持ちだ。俺は真白のことを愛していることは誇りだし、胸を張って言える。真白も俺のその気持ちに応えてくれようとしているのは知っているし、いつもだったら真白のペースに合わせたいと思っている。だけど、これだけは俺のわがままと思ってくれてもいいけれど、俺と結婚したってこと、隠して欲しくないんだ」
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