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テンプテーション【完結】
第1章 告白から始まる恋?
 促されたけれど、恥ずかしくて言えない。だからはぐらかすことにした。
「年収は?」
「それ、聞きたいことじゃないだろう」
「えー、今はお見合いで、『それでは若い者に任せて……』タイムじゃないんですか」
「この席がいつから見合いになった?」
「似たようなものじゃないですか」
「違うだろう」
「違わないですよ」
 私にとってみれば、五年前から知っている人と、改めてするお見合いみたいなものだ。
 といっても、月野木さんの年収がいくらでも、私にはあまり興味のあることではなかった。
 全身をブランド物で固めている訳でもないし、金銭感覚は私とたぶん似ていると思う。だけど月野木さんの実家は大きな病院を経営していると言っていたから、財力がうちとは違うことは明らかだった。
「見合いだというのなら、俺の基礎データから話せばいいか?」
「いえ、いいです。大体覚えていますから」
「それなら、話していないことを言えばいいか?」
「んー、そうですねぇ。それよりも月野木さん、私、告白されるまでまったく月野木さんの気持ちに気がついていないくらい鈍いんですけど」
「知ってる。いつ気がついてくれるかなという思いはあったけど、気持ちを隠していたから、鈍い真白が気がつくわけないよなと」
「……悪かったですね。どうせ内心でにやにやしていたんでしょう?」
「よく分かったな」
「趣味が悪いと思います」
「趣味はいいだろう? たとえば真白のことが好き過ぎて愛してるところとか」
「そこが趣味が悪いですよ」
「なんでだ?」
「私のことが好きってところがです」
「やっぱり趣味がいいじゃないか」
「……月野木さん、酔っ払ってます?」
「いや……。あぁ、酔ってるかも」
「それなら、少し酔いを醒ますためにお冷やをいただきましょうか」
「真白に酔ってる」
「……完全に酔ってますね」
 月野木さんが酔うなんて、珍しいこともあるものだ。もらったお冷やを口にすると、火照った身体に染み渡るのが分かった。
「私も少し飲み過ぎたみたいです」
「俺は酒には酔ってないが、真白には酔ってる」
「そうですか」
 なんと返せばいいのか分からず、素っ気ない返しになってしまう。
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