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テンプテーション【完結】
第1章 告白から始まる恋?
 呆れていると、目の前にミネラルウォーターを差し出された。私は反射的に受け取っていた。
「ありがとうございます」
「アルコールが残ってると思うから、しっかり飲んでおいた方がいい」
 誤魔化されたような気がするけれど、触ったことを自己申告してくれたし、気を利かせて水をくれたから不問にしておこう。
 ベッドの端に座って言われるままにペットボトルの水を口にすると相当喉が乾いていたみたいで、とても美味しかった。気がついたら一本、飲んでいた。
「さて、と」
「うわっ」
 私の真横に月野木さんが座ったのでびっくりして飛び跳ねると、笑われた。
「そんなに驚かなくても」
「驚きますよ!」
「昨日はこうやってもたれ掛かってくれてたのになぁ」
 と言って月野木さんは私の肩を抱き寄せた。その感触にうっすらと記憶がよみがえってきた。
 昨日は一気に酔いが回って、それでくらくらしていたから月野木さんにもたれ掛かった。スーツの布地の冷たさが気持ちよかったのも覚えている。
 あとは……身体に回された腕に、月野木さんの鼓動音。温もり。
 ……うわっ、昨日の酔っぱらいの私、なにをしてるのっ!
「思い出したか?」
「うわあああっ! や、やめてくださいっ」
「止めないよ? 俺だけこんなにどきどきさせておいて忘れるなんて、許せない」
 強い言葉だったけれど、口調そのものは優しくて、回された腕も心地よくて、抜け出せない。しかも妙に甘ったるいというか、甘やかされてる感じで、嫌いじゃない。
 とはいえ。
「許せないって! 酔っぱらいのやらかしたことじゃないですか!」
「酔うと本音が出やすくなるよな?」
「は?」
 この人はなにを言ってるのだろう。
「普段、甘えるようなことをしてこないのに、ふとしたときに寄ってこられると、すごくたまらない」
「うぅ」
「なんだか野良猫を手懐けたみたいで誇らしい気分になる」
「私は猫、しかも野良なんかじゃないですっ!」
 とはいえ、私もたまに月野木さんを飼っていた犬みたいと思ったりするから、お互い様かもしれない。
「じゃあ、俺の飼い猫になる?」
「遠慮します。私は自分のことは自分でしますっ」
「なるほど。真白を懐かせるのは相当骨が折れるってことか」
 そう言って楽しそうに笑った月野木さんにどきりとした。
「今のは、プロポーズを断られたと判断してもいいのか?」
「……あ」
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