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テンプテーション【完結】
第1章 告白から始まる恋?
 言われてみると確かに変わっているかもしれないけど、結婚は義務ではないんだからしなくてもいいと思うのよね。したいと思った人が現れたらまた話は別なんだろうけど。
「ところで、なんで真白は彼氏は要らないなんて思ったんだ?」
 理由を告げてもいいのだろうかと一瞬、迷ったけど、隠す必要はないから答えた。
「……面倒だから」
「え? そんだけ?」
「うん。私、不器用だから、彼氏が出来たら仕事がおろそかになりそうだったから要らないと思ったの」
 私の返事に月野木さんは安堵のため息を吐いた。
「てっきり、男性不信か男嫌いなのかと思ってた」
「それはないです。馬鹿な兄がいますから、だいたい、男の人の生態は分かってます」
「生態か……。それなら、俺がどれだけ昨日、辛かったか分かるよな?」
「分かりません」
「えええっ」
 月野木さんは大げさに床に手をつき、恨めしそうな視線を私に向けてきた。この人、こんなにノリが良かったかなぁ。
「真白さん、やっぱり結婚して」
「はあ?」
「今すぐしたい。一秒も待てない」
「私にはそこに到達したプロセスがまったく見えなくて怖いんですけど」
「真白への愛があふれた」
 月野木さんがどう思ってそんなことを言っているのかまったく分からなかった。
「もう、なんてかわいいの。仕事がおろそかになるから彼氏は要らないって。どんだけ不器用なの。すげーかわいい」
「そこ、かわいくもなんともないですよね?」
「本当にそれが理由だとしても、普通はもう少し取り繕うと思うのに、それを一切しないところもかわいい」
「かわいくないですって」
 すでに私も月野木さんも食べ終わっている。このままここに座っていたらなんだかマズいことになりそうだから立ち上がろうとしたけど、遅かった。月野木さんの方が早くて、ソファに身体を押しつけられた。私の顔をじっとのぞき込んできた。
「結婚しろ」
「いや、だから訳が分からないです」
「こんな不器用な子は、どろどろに甘やかしたい」
「それも訳が分からないです」
「必死に威嚇してる野良猫みたいで手懐けたくなる」
 どうやら月野木さんの中では私は野良猫決定のようだ。大型犬にじゃれつかれてる猫の図が頭に浮かんで微笑ましいと思ったけど、その猫を自分に置き換えたらしゃれにならなかった。
「キスしたい。してもいい?」
「駄目ですって」
「あぁ、すごいツボ」
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