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テンプテーション【完結】
第1章 告白から始まる恋?
     *

 知っていたけれど、月野木さんの部屋と私の部屋は最寄り駅が一緒だった。だけど月野木さんの部屋の方が駅から近い。それだけはちょっと羨ましい。
「手……繋いでもいい?」
 部屋を出たところで、今時のマセた中学生でさえそんなこと聞かないだろうってことを真顔で聞いてくるから、思わず顔がひきつった。
 手を繋ぎたいと思ったのなら、聞かないで強引に手を取ればいいのに。そう思ったから、
「嫌です」
 と拒否をしていた。なにも言わないでされていたら、手をふりほどいてまで拒否するものではないからしなかったのに。
「……それなら、我慢する」
 しょんぼりと肩を落としたのを見てかわいそうなことをしたかなと思ったけど、いやいや、これはきっと月野木さんの作戦だ。
 本人がさっき言っていたけど、紳士的と言えばそうだけど、今までこんな感じでつき合えてきたのかしら?
「月野木さんって」
「ん?」
「モテますよね」
「……まあ、な」
 今まで何人の女性とおつきあいしたんですか。……と聞こうとしたけど、なんだかそれって下世話だし、それに嫉妬してるみたいだ。
 月野木さんのことは好きだけど、そんなんじゃない。
 うん、違うから! 月野木さんからプロポーズされたから意識してるなんて、違うって!
 自分に言い聞かせるようにして、それから隣にいる月野木さんを見上げた。
 背が高くて、顔もよくって、実家は病院経営をしていて、それでいて本人もお医者さん。結婚相手としては十二分すぎる相手だと思う。
 結婚、かあ。
「月野木さんは結婚になにを望んでますか」
「結婚に望むもの……?」
「ちなみに、私は特にないです。というより、私にはその未来はないので考えてません」
「それなのに俺には聞いてくるのか?」
「はい。それを聞いて、結婚に対して前向きになれるかなと思いまして」
 ちょっとハードルを上げすぎたかなと思ったけれど、月野木さんからはすぐに答えが返ってきた。
「真白を甘やかしたい」
「……はい?」
「逆立ってる背中の毛を撫でて、大丈夫だよと懐かせたい」
「……それ、結婚に望むものですか?」
 かなりズレた答えにため息しか出ない。
「俺が望むのはそれだけだ!」
「……そうですか」
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