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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
     *

 目が覚めて、貴博さんの腕の中でそんなことをつらつらと考えていたら、貴博さんも目を覚ましたようだった。
「ん……?」
 寝ぼけ眼で状況を把握してないような声に思わず笑ってしまった。
「あれ? 俺、まだ夢を見てるのかな」
「いえ。おはようございます、貴博さん」
「────っ! 昨日は、夢じゃない?」
「夢じゃないですよ?」
 私も同じように夢だったのではないかと思ったけれど、貴博さんの温かな腕の中にいるというのが事実だと告げていた。
「夢じゃない?」
「はい」
「俺と結婚してくれる?」
「しますって返事をしましたよ?」
 なんだかおかしくてくすくすと笑っていたら、貴博さんの手が私をぺたぺたと触っていった。
「……夢じゃない」
「そうですよ」
「そっか……」
 貴博さんは安堵したように大きくため息をついた。
「夢で」
「はい」
「真白に嫌いって言われて、振られた」
「私に振られたいんですか?」
 質問と同時に貴博さんは激しく頭を振った。
「夢の中で振られたけど、振られても、諦めきれないって嫌というほど知った。だから、振られたのが夢だったらいいと思って目を覚ました」
 夢で良かったと貴博さんはつぶやいたけど。
「振るのなら、早く振ってほしいって言いましたよね?」
 言われたことを思い出して聞けば、貴博さんは悲しそうに眉尻を下げた。その表情はやはり、実家で飼っていた犬みたいだった。
「言ったけど、それは振られたら真白のことを早く忘れるためにって思ったからだ」
「私のこと、忘れてしまうんですか?」
「……手に入れられなかったものをいつまでも覚えておくのは辛いじゃないか」
「……そうですね」
 それもあって、私は彼氏は要らないと言っていた。私は自分が傷つくのが嫌で、遠ざけていた。
「貴博さんはすごいです」
「なんで?」
「私は振られて傷つくのが嫌で、そういう特別を作らないできたのに、貴博さんは真っ直ぐです」
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