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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
 私の言葉に貴博さんはちょっとだけ苦笑してから私の髪の毛をくしゃりと撫でた後、抱きしめてきた。
「手を伸ばさないと、ほしいものは手に入らない」
 この温もりは、貴博さんが私に手を伸ばしてきたからこそあるものだ。果たして、私にはそんなものが今まで存在しただろうか。
「ところで、真白の両親、今日は仕事?」
「休みですけど……?」
「挨拶に行きたい」
「挨拶っ?」
 えっ、それってもしかしなくても、結婚しますっていう挨拶っ?
 いやまあ、今日は実家に顔を出そうかなとは思っていたけど、まさか貴博さんと一緒になんて考えてなかったから戸惑う。
「今日、実家に行く予定ではありました」
「なにか予定でも?」
「いえ。たまに顔を出さないと、いろいろうるさくて」
 貴博さんはもそもそと動いて身体を起こした。私はパジャマに着替えていたけれど、貴博さんはシャツにチノパンだった。
「それなら、動くか」
「……へ?」
「朝ご飯にするには遅いから、……そうだな、真白の実家にはどうやって行く?」
「電車に乗ってですけど」
「それなら、十時に駅前で待ち合わせでいいか」
「いいですけど……?」
 貴博さんの思惑が分からなくて眉間にしわを寄せたら、貴博さんの指が伸びてきた。
「ここにしわを寄せるのはよくないぞ」
 貴博さんの長い指がしわを伸ばした。その指先がなんだか気持ちがよい。
 うっとりと目を閉じたら、唇に柔らかな感覚。驚いて目を開けたら、貴博さんの顔が目の前にあった。どうすればよいのか分からず固まっていると、貴博さんは唇を離すとくすりと笑った。
「そんなに見られていたら、恥ずかしいだろ」
「や……だって! というか、私が見ているってのが分かったってことは、貴博さんも目を開けてるってことじゃないのっ」
 反論したら、またもや笑われた。
「唇を離すときに開けたら見られてたから、見られたのかなと思って鎌をかけた」
 なにそれ、私、見事にひっかかったってこと?
「断りを入れたら断られるから不意打ちにしないとな」
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