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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
     *

 私と貴博さんが利用している駅はそれほど大きくない。乗降客は多いけれど乗り換え利用が主で、改札口は一か所。駅で待ち合わせというと改札口近くで待っていることが多いのでそちらにいくと、すでに貴博さんはいて、遠目からでもすぐに分かった。本気で挨拶に行くつもりのようで、スーツ姿だ。
 対する私はあんまりおめかしするのもおかしいと思ったので、通勤服よりはもう少し気楽な感じにしたのだけど、スーツ姿の貴博さんと並ぶとちょっとバランスが悪いかもしれない。これだったらワンピースを着てきた方がよかったかなあ。
「すみません、お待たせしました」
「待ってない。俺も今、来たばかり」
 そういうと貴博さんは私の手を取り、繋いできた。こういう何気ないところが経験の差を感じさせるような気がする。
「なに食べようか」
「そうですね……」
 休日のこの時間に外食をすることがあまりないので、どこが美味しいのか分からない。
 ここで迷っても仕方がないので私たちは適当なお店に入り、朝食兼昼食を食べた。
 お腹が空いているはずなのに、食事が喉を通らなかった。
「食欲ないのか?」
 やはりそのことにつっこみを入れられた。
「なんでしょうか……。たぶん、緊張しているんだと思います」
 じわじわとまるで遅効性の毒のように貴博さんと結婚するという事実に気がつき、緊張をしてきたようだった。
「身構えるようなことではない」
「そうですけど」
「大丈夫、俺がついている」
 その一言に不思議と不安が消えていき、ようやく食べられた。
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