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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
*
実家は駅から歩いて十五分ほどのところにある。バスもあるけれど、タッチの差で出たばかりだった。次のバスまで二十分だったから、歩くことにした。
駅の周辺は大型スーパーなどがある。さらに駅から離れるとマンションがあり、もっと離れると一軒家がずらりと並んでいる。そしてさらに奥へ行くと、ちらほらと畑が見えてくる。
「父は結婚してすぐに、園芸が趣味の母のためにこの地に畑と家を買ったんです」
「お父さん、すごいな」
「でも、貯金もあまりなかったから、こんな奥地になったんです」
「通勤は大変そうだけど、子育てにはとてもいい環境だと思うよ」
貴博さんが言うように、父はここから職場まで定年するまで通ったのだからすごいと思う。私なんて、半年も耐えられなかったというのに。
私と貴博さんは手を繋いで家へと向かっていた。歩道は狭いから、並んで歩けないので貴博さんは私の後ろを歩いていた。
住宅地を抜けると、急に目の前がひらける。どこまでも続くように見える畑。合間に見える家の屋根。久しぶりの風景になんだかホッとした。
「畑がある」
「はい」
「真白はずっとここで育ったの?」
「そうですよ。ここからは見えないですけど、左側に行くと、小学校があります。中学と高校は右側ですね。小学校は徒歩で通える距離でしたけど、中学からは自転車通学でした」
貴博さんは珍しそうに辺りを見回した後、ぎゅっと手を強く握り返してきた。
「なんだかいいな、こういうところ」
「え?」
「駅の周辺を見たけど、個人病院があったくらいか」
「住宅地の中にもありますよ」
貴博さんはしばらくなにか考えた後、小さくうなずいた。
「真白は実家が近い方がいいか?」
その問いの意味するところが分からなくて首を傾げると、貴博さんは付け加えた。
「新居をどこにしようか、考えているんだ」
「新居……? 貴博さん、引っ越すんですか?」
なにも考えないで素で返したら、ものすごく悲しい表情をされた。それはやっぱり、昔飼っていた犬みたいで笑いそうになってしまったのだけど。
「真白は別居がいいの……?」
「別居?」
実家は駅から歩いて十五分ほどのところにある。バスもあるけれど、タッチの差で出たばかりだった。次のバスまで二十分だったから、歩くことにした。
駅の周辺は大型スーパーなどがある。さらに駅から離れるとマンションがあり、もっと離れると一軒家がずらりと並んでいる。そしてさらに奥へ行くと、ちらほらと畑が見えてくる。
「父は結婚してすぐに、園芸が趣味の母のためにこの地に畑と家を買ったんです」
「お父さん、すごいな」
「でも、貯金もあまりなかったから、こんな奥地になったんです」
「通勤は大変そうだけど、子育てにはとてもいい環境だと思うよ」
貴博さんが言うように、父はここから職場まで定年するまで通ったのだからすごいと思う。私なんて、半年も耐えられなかったというのに。
私と貴博さんは手を繋いで家へと向かっていた。歩道は狭いから、並んで歩けないので貴博さんは私の後ろを歩いていた。
住宅地を抜けると、急に目の前がひらける。どこまでも続くように見える畑。合間に見える家の屋根。久しぶりの風景になんだかホッとした。
「畑がある」
「はい」
「真白はずっとここで育ったの?」
「そうですよ。ここからは見えないですけど、左側に行くと、小学校があります。中学と高校は右側ですね。小学校は徒歩で通える距離でしたけど、中学からは自転車通学でした」
貴博さんは珍しそうに辺りを見回した後、ぎゅっと手を強く握り返してきた。
「なんだかいいな、こういうところ」
「え?」
「駅の周辺を見たけど、個人病院があったくらいか」
「住宅地の中にもありますよ」
貴博さんはしばらくなにか考えた後、小さくうなずいた。
「真白は実家が近い方がいいか?」
その問いの意味するところが分からなくて首を傾げると、貴博さんは付け加えた。
「新居をどこにしようか、考えているんだ」
「新居……? 貴博さん、引っ越すんですか?」
なにも考えないで素で返したら、ものすごく悲しい表情をされた。それはやっぱり、昔飼っていた犬みたいで笑いそうになってしまったのだけど。
「真白は別居がいいの……?」
「別居?」