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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
 慌てて首を押さえたら、貴博さんは笑った。
「ごめん、昨日、白くて綺麗だったからついつけてしまった」
 そういって、貴博さんは髪を下ろすと隠れる首の付け根の辺りを撫でた。確かにその辺りに顔を埋められた覚えがある。
「俺のものだって知らしめるためにつけたけど、ちょっと色っぽすぎたから今度からは見えないところにつける」
「なっ……!」
「だから今日は、髪を下ろして隠しておいてほしい」
 キスマークを見せたまま、私は電車に乗ってきたってこと? かなり恥ずかしい。
 それと同時に昨日の出来事を思い出して、恥ずかしくなって顔が真っ赤になったのが分かった。
 酔っていたからすごく大胆だったけど、私、初めてだったのよ。すごく恥ずかしい……!
「真白が赤くなってる」
「たっ、貴博さんが恥ずかしいことを言うから……っ!」
「白と赤が混じって、ピンク色か。ピンクの野良猫か」
「そんなのいるわけないじゃないの!」
 もう、ほんと、恥ずかしい!
 恥ずかしいのを誤魔化そうと思って大股で歩いていく。家に近づくにつれ、アスファルトから砂利道になり、むき出しの土となる。
 土をしばらく歩くと門が見えてきた。「東泉」という表札が見えて、家に帰ってきたと実感した。
「あれ?」
 門の向こうには車が三台、止まっていた。一台は父がリタイヤしたときに購入した農業用軽トラック。その横にあるのはたぶん兄の車で、さらに横に止まっているのは見たことのない車だ。あれってベンツ?
 私はいつも、実家に行くときは連絡を入れていない。来客だろうか。
「もしかしたら、来客かも」
「出直すか?」
「うーん……」
 私だけなら引き返すけど、貴博さんもいるし、どうしよう。
 と思っていると、家の中から父の怒鳴り声が聞こえてきて、思わず貴博さんと顔を見合わしてしまった。
 温厚な父は滅多に怒らない。だから家の中ではよほどのことが起こっているのだろうと推測された。
 やっぱり日を改めた方がいいかも。
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