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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
 と思っていたら、引き戸の玄関がすごい音を立てて開かれた。
 それからだれかが慌てて裸足で飛び出してきたのが見えた。けど、その人物が兄だとすぐに分かった。少し前に兄を見たときは茶色を通り越して金髪だったけれど、元の黒髪に戻っていた。
 兄の後から女性が現れた。おろおろして、兄の靴を持って兄へと近寄っていた。
「きさま、穂坂さんとこのお嬢さんに手を出したばかりか、孕ませやがって……!」
「だから、責任とって結婚するって言ってるんだろう!」
「責任だけで結婚するのかっ!」
 なんだか大変な修羅場に遭遇してしまったようだ。
 というか、穂坂さんってこの辺りの土地持ちの穂坂さん?
 そう思ってみると、見覚えのある女性だった。私の記憶の中では少しぽっちゃりしていたけれど、今はほっそりしていた。年は私より一つか二つ下だったはず。
「良一さんは悪くないんです! あたしがっ!」
「莉子は悪くない! オレが!」
 なんだかよく分からないけど、お互いがかばいあっていてお似合いのカップルではないだろうか。
「良ちゃんも謝ってるし、莉子ちゃんのご両親はなにも言ってないんでしょう? いいじゃない、結婚を認めてあげれば」
「だが!」
「呼ばれたから来たけど、どーみてもお似合いのカップルでしょ。わたし、つわりがひどいんだから、帰る。惣太、帰るよ」
「はいっ!」
 惣太って、同級生の相沢惣太っ?
 いやまあ、昔から姉のことを好きだって言っていたけど!

 久しぶりに訪れた実家は、なんだかカオスなことになっていました……。

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