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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
 母の言うことはもっともだけど、報告さえ出来れば外でも中でも同じだし、中に入ったら今度はなかなか帰れないような気もするから、ここでいいと思う。
 それにしても、なんだかもう、ぐだぐだすぎる。今度から連絡を入れてから帰ることにしよう。
「いえ、大丈夫です。また改めて来ますが、本日は真白さんとの結婚のお許しをいただこうとうかがいました」
 そういって真っ直ぐな視線を向けてきた貴博さんに、父が少し怯んだのが分かった。
 しばらくの間、二人はにらみ合っていたけれど、先に折れたのは父だった。貴博さんから視線を外し、ぼそりとつぶやいた。
「分かった。許そう」
 えっ? なんで? なんでそんなにあっさり?
「ほら、婚姻届」
「えっ?」
「はい、持ってきてます」
 って、用意がよいですね、貴博さん!
「俺は書いてきたから、真白、ここに書いて」
 戸惑うままに玄関先で婚姻届を書かされて、さらには父が証人欄に書いてくれた。
「大変なところに失礼しました。また改めて、ご挨拶にうかがいます」
 貴博さんは婚姻届を確認すると、スーツの内側にしまった。
「それでは、失礼いたします」
 実家の滞在時間は三十分もないくらい。今までで最短だと思う。
 私たちはまたもや手を繋いでだらだらと駅まで歩いた。
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