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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
 前にも同じようなことを言われた覚えがあるんだけど、この人、ほんと大丈夫だろうか。
「真白は疲れてないか?」
「大丈夫ですけど……?」
「それなら、明日にしようと思っていた俺の両親との対面、今日でもいいか?」
「え……?」
 今日、いきなりですかっ?
「こっ、心の準備がっ」
「それは電車の中ですればいい」
 強引なことを口にした貴博さんに戸惑ったけど、貴博さんもしたことだし、結婚するのならきちんとご挨拶にうかがわなくてはならないのだから、今日、済ませられるのならいいかもしれない。
 土曜日の昼下がりの上り電車は行きよりも混んでいて、必然的に貴博さんに引っ付くことになってしまった。かなり恥ずかしい。
 貴博さんに抱きしめられるような格好で電車に乗っていると、昨日の夜のことを思い出して、顔が赤くなったのが自分でも分かった。
 なにげない瞬間に思い出させられて、フェイント過ぎてそれを誤魔化そうとするから、いつも以上に挙動不審になってしまう。
 平常心、平常心……と心の中で唱えても、貴博さんの腕の中にいると、温もりのせいで平常心どころか心臓がばくばくして熱くなってきた。うつむいて貴博さんに顔を見られないようにしたら、思っているよりも厚い胸板に頬が当たって、ますますいろんなことを思い出して……と悪循環だった。
 あとはこれだけ引っ付いていたら、嫌でも貴博さんの匂いがして、くらくらする。その匂いも嫌なものではなくて、好きな部類だから余計にたちが悪い。
 今はそれよりも貴博さんのご両親に会うために覚悟を決めないといけないのに、それどころではなかった。
 貴博さんに翻弄されているうちに目的の駅に到着してしまった。
 私たちは手を繋いで、貴博さんの実家へと向かった。
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