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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
     *

 玄関を入ると真っ直ぐに廊下がのびていて、ガラスのはまったドアを開けると温かな空気が流れてきた。案内された部屋はどうやらリビングダイニングのようだった。室内なのに天井が高くて開放感のある空間に感じられた。
 窓際の日差しの下にソファが置かれていて、そこにほんわりとした男性がいた。
 貴博さんは男性の前に立ち、それから私に横へ行くように促してきた。
 ここまで来てしまったから、逃げるわけにはいかない。だから背筋を伸ばして男性をじっと見つめた。
「彼女が東泉真白です」
 貴博さんの紹介に私は深く頭を下げた。
「初めまして、東泉です」
 と挨拶をしたのだけど、男性は私をじっと見て動かない。そんなに見つめられると、大変恥ずかしいのですが。
 どうしようと貴博さんを見上げたら、男性がようやく口を開いてくれた。
「貴博に騙されて連れてこられてない?」
「……へ?」
 思わず、間抜けな声を上げてしまった。
 騙されてってどういうことですか。
 ……夕飯に釣られましたけど、騙されてはいないはず。
「こんなにかわいらしいお嬢さんが貴博の奥さんになるなんて、考えられない!」
 男性の叫びに近い言葉に私は思わず顔をひきつらせてしまった。
「分かっていたけど、貴博、おまえも面食いだな!」
 面食いって……。
 いやまあ、貴博さんのお母さまが綺麗な人なのは確かだけど、私は普通だと思います!
「真白、かわいいだろう?」
 いきなり私の横でのろけだした貴博さんに今度は別の意味で逃亡したくなったけど、その気配を察した貴博さんに阻止されて失敗に終わった。首根っこを捕まれていると、本当に猫になった気分になってしまう。
「ほら、逃げない」
 貴博さんもだけど、ソファに座っている男性もなんだか大型犬みたいで怖いのですが!
「紅茶を入れましたから、どうぞ」
 お母さまはソファの前に置かれたローテーブルにカップを置いてティーポットから紅茶を注いでくれた。
 窓から入り込んでくる日差しが紅茶をきらきらと輝かせていて、綺麗だった。
 シュガーポットとミルクを置くと、お母さまはキッチンへと戻ったけれど、すぐに別のトレイにお菓子を山盛りに乗せて戻ってきた。
「ソファに座ってくださいな」
 そう言ってお母さまは男性の横に座ったので、貴博さんは男性の斜め横、私は強制的に貴博さんの横に座らされてしまった。
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