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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
 ソファに座ったけれど、とにかく無性に逃げたい。
 どうしてそう思ってしまうのか考えても分からないけれど、いい加減、私も覚悟を決めなさいよ。
 自分にそう言い聞かせて、紅茶に砂糖とミルクを入れて、一口飲んだ。とても芳しくて、ようやく気持ちが落ち着いた。
「東泉さん、本当に貴博に騙されていない?」
「……父さん、騙してないから」
「おまえは外面だけはいいからな!」
 なんだかひどい言われような気がするけど、外面がいいってことは、貴博さんって腹黒なの?
 今までのつき合いの中で確かに要領の良さみたいなのは見えていたけど、それって腹黒とはまた違うからなあ。本当に腹黒ならば、私みたいな鈍感を五年も待たないと思う。
「父さんに外面がいいなんて言われるとは思っていませんでした」
「そうねぇ。あなたたち、嫌ってほど似てるもの。どちらもどちらでしょう」
 親子三人の会話にぽかんとしていると、お父さまが苦笑した。
「真白ちゃんと呼んでもいいかな?」
「はい、構いませんよ」
 そう返事をすると、隣に座っている貴博さんは不満そうな表情をした。
「馴れ馴れしく呼ぶなよ、父さん。俺はようやく最近、真白って呼べるようになったのに、初対面で呼んで……」
「まあまあ、嫉妬しないの。だって真白ちゃんは貴博の奥さんになるんでしょう? 東泉さんとは呼べないじゃない」
「うむ」
 貴博さんはそう言われてぐぅと呻いていた。
「貴博はこんなヤツだが、末永く仲良くしてほしい」
「はい」
 と返事をしてから気がついたけど、こんなヤツだなんて!
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