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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
     *

 婚姻届の証人欄に書いてもらい、それから少し話をしてから部屋を後にした。
 そういえば、結婚式はするのかと聞かれたけど、やっぱりした方がいいのよね?
 後は結婚指輪はどうするのかと言われたけど、いろんなものを吹っ飛ばしての結婚だったから、まったく考えていなかった。
 考えなくてはならないことが実はたくさんあると気がついて、悩んでいた。半分くらい上の空だったけれど、貴博さんが手をつないでくれていたからそんなに危なくなかった。
「真白、このまま婚姻届を役所に持って行こう」
「え……と?」
 結婚式をするとしたらいつがいいのかなんて考えているところにいきなり言われたから、とっさに反応が出来なかった。
「さっき書いてもらった婚姻届を提出しに行かないか?」
 貴博さんは言い方を変えて私に次の行動を示唆してきた。
 そうだった。書いてもらっただけではただの紙切れで、効力はないんだ。役所に提出して受理されて初めて私たちは夫婦になる。そんなことさえ失念していた。
 だけど勢いのままここまで来たけれど、この選択は間違ってないだろうか。結婚することを選んでもいいのだろうか。別にこのまま、籍を入れなくても──。
 とそこまで考えて、自分がそんなに器用なことが出来ると思えなかった。だから結婚するかしないかの二択だ。しないとなると、貴博さんとは別れることになると思う。前みたいに飲み友だちに戻れるほど器用ではない。
 貴博さんとは別れたくない。となると、貴博さんと別れないためには結婚を選択するしかない。
 だけど結婚をすれば、いろんな義務が発生する。私は仕事をしながらそれらをきちんとこなすことが出来るだろうか。
 そんなことを考えてなかなか返事をしない私に、貴博さんはとても悲しそうな表情を向けてきた。
「結婚に対して躊躇しているのなら、止めるのは今のうちだぞ?」
 そう言われ、私は立ち止まった。
 貴博さんが言うように確かに結婚という行為に対して躊躇している。それはきっと、相手がだれであれ、私は考えたと思う。
 だけど、とさらにその先を考える。
 お互いの両親に挨拶をした上で私の父と貴博さんのお父さまに婚姻届の証人欄に署名をしてもらって、やっぱり止めましたって、よほどのことがない限りはあり得ないことよね。
「俺は真白を待つよ」
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