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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
 そう言ってくれる貴博さんは忍耐強く、しかもとても優しいと思う。
 だから私は今の戸惑いを言葉にした。
「あの、私……結婚してもいいんでしょうか」
 そう、悩んでいるのはそこなのだ。
 不器用だから、仕事も結婚生活もこなしていく自信がないのだ。
「してもいいんだよ」
 貴博さんは即答してくれたけど、やっぱり本当にいいのだろうか。
「どちらかが疎かになりそうで怖いんです」
「それでは真白、ひとつ聞いていいか?」
「はい」
「真白は一人暮らしをしているけど、きちんと生活できているよね?」
 今はだいぶ慣れたからマシだけど、仕事が忙しくなるととんでもないことになる。しかも。
「今はマシですけど、一人暮らしを始めたとき、すごく生活が乱れました」
「一人暮らしを始めたのはいつだった?」
「入社一年目の夏のボーナスの後です」
「そんなことを言ってたよな、そういえば」
 変な時期だったからか、希望する物件はなかなか見つからなかったけれど、家賃は予定していたより安くなった。なんでも夏場は引っ越しが少ないみたいで、家賃相場は安くなるそうなのだ。
「……言われてみたら、あのころはちょっとやつれていたよな。俺はてっきり、夏ばてと慣れない仕事で疲れているのだとばかり思っていた」
 そういえばそんなことを言われて、夏ばてにいいからと野菜たっぷりのお店に連れて行ってもらったような気がする。そこの野菜が美味しかったから、一時期、通っていた。
「それもありましたけど、一人暮らしが慣れなくて」
「でも、今はだいぶ慣れた?」
「はい」
 私の返事に貴博さんは笑みを浮かべた。
「最初から上手くやっていこうと思うから苦しいんだと思うよ。真白が働いてるのは分かっている。それに俺は真白にすべてを押しつけようと思っていない」
 私は貴博さんの言葉に瞬きをした。それからじっと顔を見た。
「結婚するんだから、俺と一緒にいろいろ乗り越えていこうよ」
「…………!」
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