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テンプテーション【完結】
第2章 自覚する想い
 結婚指輪も貴博さんがカードで払っちゃったし、今日、これから行くお店も高いのは分かっている。そしてきっと、貴博さんはいろいろ理由を付けて払うのだ。
 高級品志向ってわけではなさそうだけど、どうやら私に対しては甘くなる傾向にあるのではないかと分析した。
「俺の財布、真白に管理してもらおうかな」
「お小遣い制にしますよっ?」
「あ、なんかそれ、結婚したって感じでいいな」
「普通は嫌がりますよ」
「俺が金を使うのは真白にだけだから」
 そう言って貴博さんは私に笑みを向けてきた。なんですか、この甘ったるい生き物は。
「仕事用のスーツさえあれば、俺、真白のために馬車馬のように働ける……!」
「馬車馬より番犬がいいです」
 とぼそりとつぶやいたら、貴博さんにお腹を抱えて笑われた。
「野良猫のお城を守る番犬か。それはそれでいいな」
 どうあっても私のことは野良猫扱いにしたいみたいです。
「私、貴博さんの奥さんになったんですよ。もう野良じゃないです」
「そうだな、そういえば」
 そう言って貴博さんはまた笑った。
 この人、こんなに笑い上戸だったかなぁ?
 だけどそうやって楽しそうに笑う貴博さんを見て、私も幸せな気分になれるのだから、笑い上戸でもなんでもいいのだ。常にむすっとされていると辛いから、これくらいでちょうどいい。
「予約は取れたけど、カウンターしか空いてなかったんだ」
「カウンターでもいいですよ」
 私たちは仲良く手をつないでお店に向かい、貴博さんが言うとおりに案内されたのはカウンターだったけれど、並んでではなくて、L字の部分に九十度。なんだか妙な感じだ。
「色々と相談しないといけないことがあるよな」
 お通しと熱燗を口にしながら貴博さんは口火を切ってくれた。どうやって切り出そうかと悩んでいたから、大変助かった。
「指輪が思ったよりあっさり決まったから良かった」
「そうですね。アクセサリって普段はつけないからちょっと戸惑いましたけど、地味に主張する感じがいいなと思いました」
 私の指輪に対するコメントがおかしかったようで、貴博さんはくすくすと笑った。やっぱり笑い上戸だ。
「地味に主張って、あの指輪は充分に主張はしていたから、地味ではないよ」
「そうですか?」
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