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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
 お風呂から上がると、貴博さんは入れ替わりで入っていった。
 同じ空間で自分以外の人とこういう生活的なことをするのが久し振りすぎて戸惑うことがあるけれど、貴博さん相手だと身構えることがない。ほんと、貴博さんは不思議な人だと思う。
 私の定位置になってしまっているソファに座り、ぼんやりと部屋の中を眺めていた。
 私の部屋とは違うから置いてある物は違うはずなのに、どうしてだろう、まるで昔から知っているかのような錯覚に陥ってしまう。前に来たときは落ち着かなかったのに、それだけ貴博さんに馴染んだってことなのだろうか。
 それは貴博さんの腕の中に包まれているときの温かな感触と似ているからではないかと気がついて、恥ずかしくて耳まで真っ赤になったのが自分でも分かった。
 ふんわりと漂う空気が貴博さんみたいなのだ。
 優しくて、妙なところで強引で。だけどすごく気を遣ってくれているのがよく分かる。腕の中で包まれて、いつの間にか素直になっていくのを感じた。
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