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テンプテーション【完結】
第3章 囲い込まれる野良猫
     *

 目が覚めたらいつもよりも暖かくて、すごく幸せな気分だった。それがどうしてか悩んで、思い出した。
 そうだった、昨日、貴博さんと入籍して、部屋に帰らせてくれなくて、貴博さんの部屋に泊まることになったんだった。
 疲れてしまってそのまま眠って、現在に至る……と。
 仕方がないとはいえ、まるで自分の部屋のように、いや、自分の部屋よりも明らかにくつろいでいるこの状態ってなんでしょうか。
 それもこれもきっと、貴博さんのせいだ。人といてこんなにつくろげるのは初めてだ。ほんと、貴博さんって不思議な人だ。
 その貴博さんは、私と背中合わせになっていた。静かな、それでいて規則正しい寝息が聞こえるってことはまだ寝ているのだろう。
 私は貴博さんを起こさないようにそっとベッドから抜け出した。
 貴博さんが寝ている間に朝食を作って驚かせよう。……なんて、少しいたずら気分。
 冷蔵庫はとりあえず置いていますといわんばかりの小さな物で、開ける前から結果はなんとなく察していたんだけど、中身はほぼ空っぽだった。
 入っているのは、バター、水のペットボトル……くらい?
 前に部屋に来たときには、コンビニ弁当の空と飲んで空になったアルコールの缶が転がっていたから、その都度、調達しているのが分かった。買い置きしない主義なのか、無駄を嫌うのか。
 男性で買い置きする人は少なそうだから、そもそもがそういう考えが頭からないのだろう。となると、無駄を嫌うというよりは、必要なときに必要な物だけ買っているのだろう。合理的とでもいうのだろうか、こういう場合。
 貴博さんに対するそんな分析をしつつ、視線を横にずらした。冷蔵庫になにもないとなると、隣にある天井まである扉付の棚の中に何かが入ってる?
 中身を確認しようと扉に手をかけたところで、後ろからいきなり声をかけられて、びくりと飛び上がった。
「真白?」
「ふわっ!」
 思わず変な声が出てしまった。扉に手を当てたまま振り返ると、寝癖がついた貴博さんが眠そうな表情で立っていた。その無防備なところがかわいい。
「先に起きていたのか。目が覚めたらいないから夢かと思ってた」
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