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忘れられる、キスを
第14章 無意識
「ふ…っん…っ……!」

えっちゃん先輩はバランスを崩し、その場にへたりと尻もちをついた。
ふいっと唇を離される。
顔がまた紅くなる。

「も、もう帰る…!」

よろよろと立ち上がり出口の方へと歩き始める先輩を慌てて追う。

「ちょ、ご、ごめんなさい…つい…」
「つい、でキスしないで」
「……だって、先輩、なんか、今日も可愛いから…」

昨日より少し短い膝上丈の綿のスカートに、ざっくりとしたニットがうららかな春の陽光によく似合っている。
靴はぺたんとしていて、ヒールを履いていた昨日より更に背が低い。
髪も洗い立てでふわふわ、おまけにシャンプーのいい匂い。

こんなの、外じゃなかったら絶対襲ってる…

俺の気持ちを何重にもオブラートにくるむと「可愛い」という表現がぴったりくる。
先輩はちょっと照れたように目を逸らす。

「もう、しない?」
「ん、しない。…なるべく」
「なるべく?」

へへへ、と笑ってごまかす。

「なんか、食べにいきましょ。お昼すぎたし」

そう言って手を取ると、帰るのは諦めたのか大人しくついて来た。
朝、俺が先輩の家を出た時はまだ少し気持ちの沈んだ顔をしていたが、今はだいぶ顔色もいい。
俺にやり返すくらいの元気も出てきたみたいだ。
先輩の様子に嬉しくなり、俺は思わず鼻歌なんて歌ってしまった。



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