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忘れられる、キスを
第2章 泣き顔
えっちゃん先輩と初めて会ったのはサークルに入ってしばらくしてから。

俺の入学当時、既に4年生だった先輩は就職活動もあり、なかなかサークルには来られなかった。
たまたま、授業の空き時間があり、ふらりとサークル棟の方へ行く途中、あの音が聞こえてきた。

優しく、どこか切なげな、ショパン。

誰だろう。
気になって、階段を上がると、踊り場のピアノを愛おしそうに弾いている人がいた。

見慣れない女の子。同級生?こんな子いたっけ?

不思議に思って見つめていると、ふっつりと演奏が止まった。

「1年生?見学?」

にっこり笑ったその顔に、俺はぎゅっと心臓を掴まれたような感覚に陥った。

「い、1年の星、です」
「噂の新入部員か!初めましてー深町です、4年だからあまり来られないけど…よろしくね」
「よ、よろしくお願いします…」

中学生のようにどぎまぎしながら挨拶をした。

4年生ってもう少し大人っぽい感じを想像していたけど、この先輩はなんか…俺より年下っぽい…?

そんな失礼なことを俺が考えているともしらず、先輩は「学部どこー?」とか「もう演奏会の曲決めたー?」とかのんびり楽しそうに話かけてきた。

先輩は、先輩っぽさがあまり感じられなかった。
同級生からは「えっちゃん」、後輩からは「えっちゃん先輩」とあだ名で呼ばれていたからかもしれない。
童顔に背の低さもあいまって、10代の少女のようでもあった。
けれども、時折、年上の人間の持つ余裕のようなものも垣間見え、そのギャップがなんともいえなかった。
サークルの他の先輩や学部の同級生たちですら、そんな雰囲気を持つ人はいなかった。

そんな雰囲気と気取らない性格にも惹かれ、俺は先輩を見かけるたびに、寄っていっては話しかけていた。

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