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忘れられる、キスを
第2章 泣き顔
それでも、そこに恋愛感情みたいな、特別な想いがあったかといえば、そうでもなかった。
むしろ、今まで出会ったことのない新しい種類の人間だったから、単なる好奇心で近づいていた、という方が正しいと思う。
あの表情を見るまでは。

夏になると、秋に行われる演奏会に向けてミーティングや練習が増える。
俺を含め、数名の新入生は去年の演奏会の映像を見ることになった。
視聴覚室を借りて大画面で上映するので、有志で先輩たちも集まって来た。

「えっちゃん先輩、出てるんすか?」

そういって、横に座る。

「うん…」

小さく頷いて、でもその視線は画面に釘付けになっていた。
一台のピアノに、二人の奏者。
奥側に座る、背の低い人は…えっちゃん先輩…?
もう一人は、知らない、男の人。

演奏はすごい、の一言だった。
二人の息はぴったりで、何より音がきらきら輝いて、とても楽しそうなのが画面越しに、伝わってきた。

「先輩、すごいっすね…」

小さな声で言いながら横を見た。

先輩は、ひどく切なげな表情で画面に映るその人を見つめていた。

こんな顔してるの、初めて見た…

初めて笑顔を見た時と同じように、心臓がぎゅっと締め付けられるような感覚に陥った。


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