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忘れられる、キスを
第16章 決着
メールの返事は意外と早くきた。
会えるのは、明日の昼休み、十二時からの一時間。
短くはあるが、俺のためにわざわざ時間を割いてくれたことに感謝し、了承のメールを送る。

翌日、俺は指定されたレストランへと向かった。
緊張して、眠れず、家にいても落ち着かなかったのでかなり早めについてしまった。
昼前の店内はまだ人が疎らだ。
案内された席でコーヒーをすすりながら、時間になるのを待つ。
しばらくすると、ガヤガヤと何組かのサラリーマンやOLたちで賑わってきた。
入り口の方を見たが、まだそれらしき人物は来ていない。
何度目かの来店を知らせるベルが鳴り、俺は顔をあげた。
入り口辺りで、スーツ姿のスラリと背の高い男が立ち、辺りを見渡している。
俺は立ち上がって、会釈する。

「…君が、星くん?」
「初めまして、倉田先輩」

背の高いスーツの男、倉田先輩が俺の前に座る。

「ごめんね、あまり時間が取れなくて」
「いえ、お忙しいのにすみません…」

倉田先輩はウェイターを呼ぶと、慣れた様子で定食を頼んだ。
君は?と目で示され、同じものを頼む。

「就職先、迷ってるんだよね。選択肢があるって贅沢な悩みだ…けれど、ひとまずは就活お疲れ様」

倉田先輩がふっと微笑む。
優しく、甘い、大人の男の人の微笑み。
えっちゃん先輩は、この人の、この笑顔が好きなんだろうな…と思ったら胸がちくりと痛んだ。

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