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忘れられる、キスを
第17章 告白
「社会って、結構辛いところだよね。おれ、今まですごい守られて生きてきたんだなーって、働き始めて思ったよ」

私も、です…とそれだけ言う。

「本当は…卒業したら、深町さんに関わるのやめよう、って思ってたんだ。家のことも…結婚も決まってたし…」
「じゃあ…なんで…」
「ん…情けない話、心が疲れてしまって…誰かと話がしたかった。家も、会社も関係ない、心から安心できる人と」

今更、だよね、ほんと…と先輩がいう。
本当に、その通りだ。
そんなこと、今更言われても…でも…

「私、先輩の心、癒せてましたか…?」
「うん、そりゃもう。毎回自分が苦しくなるぎりぎりまで待って、充電だと思って会ってたから」

おどけたように言う先輩の様子に思わず笑ってしまう。

「…私も、充電してました……」

言ってから、顔が熱くなる。
じわじわと胸に幸福感が広がってきた。

「深町さんは、おれの、自由の女神」
「な、なに言ってるんですか…」
「冗談じゃなくてさ、ほんと。深町さんがいてくれたから、ピアノを続けられたし。あの時期が、おれは一番自由で、楽しかったから。深町さんとピアノ弾いたり、一緒に過ごすの、本当に楽しくて、幸せだった」

私も、同じ、気持ちでした。

言葉にすると、涙が出そうで、ぐっとこらえる。

「最後の演奏会、一番大切な思い出だから」
「……私も、ずっと、大切にします」

ありがとう、光栄だよ、と先輩が微笑んだ。


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