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忘れられる、キスを
第18章 期間限定
カラン、と乾いた音がして喫茶店の扉が開いた。
振り返ると、ようやく、えっちゃん先輩が出てきたようだ。
すぐ後ろから倉田先輩も現れ、ベンチから腰を浮かしかけた俺は反射的に植え込みの陰に座りこんだ。
膨らみかけの蕾をつけたツツジの隙間から二人の様子をうかがう。
喫茶店の前で立ち話をする二人。
周りには誰もいない。
こっそりと覗いている俺以外には。
覗きなんて、趣味じゃないけど。
どうしても、気になってしまう。

ちゃんと話せた?
サヨナラ、言えた?

聞こえもしない問いかけが、ため息となって零れる。

なにを話しているのだろう…

何度目かのため息が零れた、その時。
不意に、二つの影が重なった。

あ。
嘘だ。

咄嗟に、目を瞑れば良かったのかもしれない。
でも、俺の目はぐっと開いて、その場面に釘付けになった。

キス、した?

それは、ほんの数秒。
たった一瞬の出来事。

流れるような動作で、倉田先輩がえっちゃん先輩の上に覆いかぶさり、唇が重なった。
それは、スローモーションで俺の目に飛び込んできた。
瞬きするほどの時間だったはずなのに、俺には長い長いキスをしているように見えた。

なんだよ、それ。
そんなサヨナラ、ずるい。

べたりと地面に尻餅をつき、またため息が零れた。

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