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忘れられる、キスを
第2章 泣き顔
その表情を見てから、俺の気持ちに変化がなかったかといえば、嘘になる。
時折、ひどく気になって、けれども、それっきり、そんな顔は見なかった。

会うたびににこにこっと笑う顔は、とても可愛くて、結局はそっちに気を取られてしまっていた。
とはいえ、俺は積極的に仲の良い先輩後輩から、関係性を進めようとしなかった。
自分の気持ちが、自分の中で不確かだったのもあるが、何より、今の関係性を崩したくなかったのだ。

ところが、演奏会も差し迫ったある日、思わぬ来訪者がやってきた。

あの、連弾の相手、倉田先輩だった。

「お久しぶりです!」

サークルの練習に顔を出した倉田先輩に、えっちゃん先輩が真っ先に駆け寄った。

今まで見たことない、とびきりの笑顔。

また、心臓がぎゅっとなる。

笑顔なんて、何度も見てるのに。
人が違うだけで、こんなに違うものなの?

心が苦しくて、その場から逃げ出した。

出来れば、あと1年か2年、早く生まれて入学したかった、もう少し、一緒に過ごす時間が増えたのに、なんて思っていた時期もあった。
けど、こんなに苦しくなるなら、3つ離れててよかった。
この笑顔、サークルに来るたびに見せられるってことじゃん。
よかった、倉田先輩と入れ違いで。

そこまで考えて、ひどく気持ちが落ち込んだ。




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