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忘れられる、キスを
第21章 ためらい
「肩凝ってるのかー?マッサージしてやるぞ」

そう言って、私の両肩を太い指が掴む。
ザワザワと身体が粟立つ。

「きゃ…だ、大丈夫です…」

思わず上げそうになった悲鳴を飲み込み、身体を捻る。
そうか?と佐野さんの手が離れる。
佐野さんは早坂さんの同期で、営業成績も優秀な人だ。
三月に佐野さんのサポートをしていた同僚が辞めてからは、後任を私ともう一人別の事務職員が担当することとなった。

「こ、これ、頼まれていた資料です…」

作成の終わった紙束をおずおずと差し出す。
早いなあ、ありがとう、と佐野さんはぐしゃぐしゃっと私の頭を撫でた。
ゾワゾワした感覚を首筋に感じる。

早坂さんに肩を叩かれるのも、頭を撫でられるのも平気だ。
けれど、佐野さんに触れられると、どうしても身体が竦み、嫌悪感を募らせてしまう。
最初は分からなかった。
こんな風に、大胆に触られるようになったのはごく最近だ。
細身の早坂さんとは正反対、学生時代は柔道部だった、という佐野さんは肩幅も広くて、がっしりしている。
今まであまり周りにいない男性のタイプだからびくびくしてしまうのかもしれない。

「深町、今夜は空いてるか?」

いえ、と断ろうとしたところで、電話が鳴り、佐野さんから逃れるように、受話器に飛びついた。

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