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忘れられる、キスを
第22章 高揚
「まあ、そんな入れ込んでんなら、一回うちの店に連れて来い。美味いオムライス作ってやるぞ」
「え、いいんですか?」

店長は見た目はただの冴えない中年男だが、店長の出すコーヒーと料理はとんでもなく美味い。
特にオムライスは、ふわふわの卵に飽きのこないチキンライスがマッチして絶品なのだ。
単に客としてこっそり招くつもりだったが、せっかく店長がそんなことを言ってくれたので、俺は早速えっちゃん先輩にメールした。

『今日、良かったらスターライトで夕飯にしませんか?店長がオムライスご馳走してくれるそうです』

しばらくして、返信がくる。

『少し遅くなりそうだけど、大丈夫?』

どうやら、忙しいらしい。
待ってます、と短く打って返信する。

先輩が来るとなると、俄然やる気になってくる。
いつもより、丁寧にテーブルを拭き、グラスも磨く。
店の隅に設置されたアップライトピアノも埃を払う。
自然と鼻歌が漏れた。

「…ほんと、リュウ、浮かれてるな……お前をそんなにするって、どんな娘なんだ?」
「え…や、ふつーですよ…ふつー…」

フロアにモップ掛けをしながらそそくさと店長の側を離れる。
浮かれているわけではない、と思う。
ただ、えっちゃん先輩の側にいることを許して貰えたのが嬉しいのだ。


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