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忘れられる、キスを
第22章 高揚
それからしばらくは黙々と皿を洗った。
白で統一された食器類を全て洗って、水切りカゴに入れるとなかなか爽快だった。
手を拭いて、ぐっと伸びをする。
同じ姿勢でいるのは結構辛い。
ポケットに忍ばせた携帯をみると、えっちゃん先輩からメッセージが入っていた。

『遅くなりましたが、今から向かいます』

受信時刻は丁度、休憩を終えた頃。
もう来ているのでは、とフロアへ戻ろうとした時、店長の話し声が聞こえた。

「こんな可愛い娘だとはなあ。あいつが浮かれるのも分かる」

慌てて扉を開けると、少し困惑顔のえっちゃん先輩が、カウンターにちょこんと座り、店長と話していた。

「えっちゃん先輩!」

俺の声に先輩の表情が柔らかくなる。
にこっと笑いかけられただけで、じん…と心が温かくなった。

「……先輩?あれ、年上?」

店長が目を丸くして、えっちゃん先輩と俺の顔を交互に見比べる。
カウンターの隅でグラスを拭いていた伊東さんも、ちらりとこちらを見た。

「……サークルの、先輩だったんです」
「そうか、てっきり、卒業前に新入生でも引っ掛けたのかと…」

ケラケラと笑う店長を調理場へ押し込む。

「アホなこと言ってないで…オムライス作ってくれるんですよね?」
「はいはい、任せとけ」

ひらひらっと手を振って、店長は調理場の奥へと消えていった。

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