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忘れられる、キスを
第22章 高揚
「なあに、怖い顔してるんだ?ほら、出来たぞ」

ふわりとバターの香りがした。
店長が差し出してくれた皿の上にのる明るい黄色が眩しい。

「お待たせしました」

先輩の前に置くのと同時に、くぅーっとお腹の鳴る音がした。
先輩の顔がみるみるうちに、朱に染まっていく。

「お腹空いてた?」
「う、うん…美味しそう…」

いただきます、と手を合わせて、スプーンで一口。

「わ…おいし…」

幸せそうな顔でオムライスを食べる先輩を眺めているだけで、頬が緩んでしまう。

「…おい、気持ち悪い顔でニヤついつないで仕事しろ」

店長にカウンター内から追い出されてしまった。
渋々、空いた皿を片付け、テーブルを拭く。
その隙に、店長が、何やら先輩に話しかけていた。
ささっと皿を洗い場に戻し、カウンターへ戻る。

「……何話してるんすか」
「お前が、昔、別れた彼女に付きまとわれて、バイトをクビになった話」

店長は笑っているが、えっちゃん先輩はちょっと心配そうな顔でこちらをみている。

「あー…いや、その…高校生の時、付き合ってた子が結構束縛キツいタイプで…んで、それが嫌で別れたんだけど、その後バイト先まで押しかけられて…」

まったく、なんでこんなことになってるんだ…

深いため息がまた出てしまった。

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