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忘れられる、キスを
第3章 強がり
脱衣所に取り残された私は、ひとまずお言葉に甘えてお風呂に入ることにした。

お風呂場は思ったより広く、沸かしたてのお湯のいい匂いがした。
冷えた身体に、シャワーの温かさがじんわり染みる。
頭から爪先まで洗い終え、湯船に顎まで浸かる。

ほんのわずかしか一緒に過ごしていない私のために、ここまでしてくれるなんて。
星くんは、本当に優しい子だ。
星くんのピアノも、優しい音だったな。
倉田先輩とはまた違う、誰かに寄り添うような、優しい音。

そんなことを考えていたらまた涙が出そうになって、慌てて頭を振る。

これ以上の長湯は余計な物思いに沈んでしまう、と思い、温かなお湯に名残惜しさを感じつつ、外へ出た。

用意された洗いたてのバスタオルで全身を包む。

ふと、そこに置いてあるものに違和感を覚えた。

私の服じゃない。
ワンピースとその間に下着類は入れたのに。

脱いだ服の代わりに、これまた洗いたてのパジャマと、封を開けてない新品のトランクスが置いてあった。

バスタオルをきつく身体に巻きつけたまま、顔だけドアの向こうに出る。

「ほ、星くん…」
「なんです?一緒に入って欲しいとか?」
「ば、ばか!そうじゃなくて!ふ、服は…?」
「ワンピースはこっちに掛けました。あとは洗濯中なので。とりあえずの着替え置いたでしょ?パンツは新しい奴だから気にしないでください」

洗濯?
とりあえずの着替え?
トランクス履けってこと?

頭が混乱する私に星くんが追い討ちをかける。

「そのカッコ、襲いたくなるから早く着替えてください」

星くんの言葉にバタンと勢いよくドアを閉めてしまった。
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