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忘れられる、キスを
第24章 泊まり
「ね、今日、夜バイト終わったら、ここ戻ってきてもいい?」

いいよ、と先輩が頷く。
就職も決まった今、授業もほとんどなく、サークルも顔出し程度にしか行っていないといったら、店長は容赦なく出勤のシフトを組んだ。
今日も閉店までのシフトだ。

「先輩、仕事、忙しいの?」
「うん…人辞めちゃったから、その分…」

先輩の箸が止まる。
何かを考えているような、話そうとしているような、瞳の動き。

「…えっちゃん先輩?」

ぼんやりして、どうしたの、ときくと、なんでもない、と首を振る。
壁にかかった時計を見上げると、もうすぐ七時半を指すところだった。

「わ、もう、こんな時間…!」

慌てて立ち上がり、食器をシンクに運ぶ。
俺もそれに倣い、片付けをする。
俺が着替えたり、髪を直したりしている間に、先輩は戸締りをして、口紅を塗り、上着を着て身支度を整えた。

「いってらっしゃい、先輩」

駅で別れるところで、声をかける。
うん、と振り返った笑顔が可愛くて、口紅を塗ったばかりの薄い唇にちゅっと触れるだけのキスをする。

「ちょ…」
「お仕事がんばってね」

すれ違うサラリーマンがちらりとこちらを見た。
先輩は顔を真っ赤にして、抗議するように何かを言っていたが、ホーム滑り込んで来た電車の立てる轟音に掻き消されてしまった。

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