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忘れられる、キスを
第25章 お喋り
「ね、何でこんな質問するの…?」

しばらくの間、何が好きか、嫌いか、という、まるでお見合いで知り合ったばかりのカップルのような会話が続いていた。

「んー俺、案外、えっちゃん先輩のこと、知らないなーって思って」

星くんがカップに一口、口を付ける。
そういえば、私も、星くんのことは、知らないことが多い。

「知りたいじゃん、先輩の……好きな人のことはさ」

恥ずかしげもなくそんなことを言うので困ってしまう。

「俺が知ってたのは、ピアノが上手で、ショパンとドビュッシーが好きで、心理学専攻で、あと、右利きってことかな」
「それだけ?」
「あ、ジェットコースターとオバケが苦手なのも知ってる」

観覧車は俺と乗るまでは乗ったことなかった、ってこともね、と星くんが笑う。
それから、とカップを置いて、星くんがお尻半分ほど、こちらに近付く。

「耳、めっちゃ感じちゃうのも知ってる」

かぷり、と甘噛みされ思わず声が出てしまう。
星くんはぴったりと私にくっついて、そのまま私を抱き寄せる。
硬い胸の奥で心臓の低い鼓動が聞こえる。

「俺と、キスするのも、まんざらじゃないって知ってる」

そう言って唇が重なる。
唇と唇が合わさるだけの、単純な、キス。

このキスは、すごく、気持ちがいい。

そんなこと、恥ずかしくて、言えなかった。

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