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忘れられる、キスを
第27章 不穏
「そういえば、千代子が、今日、ランチを一緒にどうだと言っているんだが」
「よろしいんですか」
「深町さえよければ。お前に会いたいらしい」

千代子さんと会うのは久しぶりだ。
ぜひ、と言うと、早坂さんは、悪いな、と優しく笑った。

出勤したら、まずはメールチェック。
朝礼後、休み明けを待っていたかのようにかかってくる電話の応対やメールに返信する。
それから、水曜に行われる会議資料の準備やチェックをしていると、いつの間にか昼休憩の時間になっていた。

「電話を一本掛けるから、もう少し待っていてくれ」

早坂さんにそう言われたので,その隙に、手洗いに立つ。
事務所に戻ろうとしたところで、後ろから肩を掴まれた。

「きゃ…」
「深町、これから昼か?」
「さ、佐野さん…」

背筋にぞくりと寒気が走る。
佐野さんの太い指が肩に食い込んで痛い。

「一緒にどうだ、昼飯。奢るぞ」
「あ、あの、今日は早坂さんと…」
「早坂?ほー…お前ら仲が良いんだな」

佐野さんが意味あり気に目を細める。
私は一刻も早くこの場を逃げ出したかったが、身体が動かない。

「まあ、いいや。でも、深町は俺の事務担当でもあるからな。今度は俺とも親睦を深めてくれよ」

ぱしっと背中を叩かれて、我に返る。

「は、はい、失礼します…!」

それだけ行って、逃げるようにその場を離れた。
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