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忘れられる、キスを
第27章 不穏
「何話していたんだ?」
「内緒。女同士の秘密よ」

千代子さんの言葉に、一服して戻ってきた早坂さんが複雑な表情をする。

「一時間って、あっという間ねー。また、お喋りしましょ。今度はうちにきて、ゆっくりね」
「はい、また…」

席を外している間にさっさと会計を済ませてしまった早坂さんにお礼を言い、千代子さんと別れる。

「悪いな、深町。プライベートのことは話し辛いこともあるだろうからほどほどにしておけと言っていたんだが…」
「いえ、気にしないで下さい」

早坂さんはもう一度「悪いな」と言うと、取引先へ行く、と言って事務所には戻らず、駐車場の方へ行ってしまった。

早坂さんと別れ、事務所に戻ると佐野さんが出かける準備をしていた。

「深町、これからちょっと外出してくるから」
「は、はい…」

あとよろしくな、と耳元に口を近づけ、肩を抱かれる。
ぞわっと全身の毛が逆立つようだった。

これは、俗に言う、セクハラ、なのだろうか。

けれども、そう言ってしまうにはあまりにも過剰な気がしていた。
上司と部下だからある接触なのだ。
別に尻や胸を触られるわけでも、卑猥な発言をされるわけでもない。

考えすぎよ、絵津子。

そう、自分に言い聞かせた。

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