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忘れられる、キスを
第28章 警戒
「全く…伊東さん、これ以上は俺も怒りますからね」

はいはい、と伊東さんは適当な返事をして、それでも、自分の携帯からは先輩の写真を消してくれた。
俺より十は年上の癖に、たまにこうやって大人気ないことをする伊東さんを、俺は掴みあぐねていた。

「リュウさん、どうやって知り合ったんですか?」
「サークルの、先輩」
「えー俺のとこ、サークルもゼミもあんな可愛い年上のお姉さんいないっすよーずるいー」

俺にも紹介して下さい、と言う洋祐の目は案外真剣だった。
そういえば、最近、彼女と別れたという話をしていたような気もする。

「そろそろ時間だぞー」

わいわいとだべる俺たちに、ディナーの仕込みをチェックしていた店長がキッチンから声をかけた。
ディナータイムは六時からだ。
入り口の所に立てかけた「準備中」の札をひっくり返して「営業中」に変える。
店内に戻る前にもう一度、メールを確認する。
俺からのメールにも、返信は来ていなかった。

なんだ、先輩、忙しいのか。

はあ、とため息がでる。

「リュウさん、露骨に落ち込んだ顔しないで下さい。ほら、お客さん来ますよ」
「分かってるよ…」

そう言った俺の後ろで、カランカランと来店者を知らせるベルがなる。
いらっしゃいませ、と俺と洋祐の声が重なった。
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