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忘れられる、キスを
第28章 警戒
隙を見てはメールを確認し、ようやく返信が来たのは、ピアノ演奏も終わり、十時を過ぎた頃だった。

『会社の上司と食事をすることになったので、遅くなるかもしれません。帰る時にメールします』

受信時間はほんの数分前。
慌てて返信する。

『遅くなるなら、迎え、行きます。どこにいるんですか?』

今度はすぐに返信があった。
たった一行、店の名前が書いてある。
調べると、先輩の会社付近にある焼き鳥屋だった。

『間に合いそうだったら、スターライト来てください』

それだけ返信して、フロアに戻る。
金曜だったが、既に客はほとんどいない。
常連のサラリーマンたちも、俺の演奏のあと、機嫌良く帰ってしまった。

テーブルの片付けをしつつ、窓の外を見る。
閉店時間になっても、結局先輩は来なかった。
急いで片付けを済ませ、着替えをする。

「リュウはお泊りだから早く帰りたいもんなー」
「ほんと、ずるいっすよー」

からかう二人を無視してタイムカードを切る。
メールは相変わらず、返信がない。

「じゃあ、お先に。お疲れ様でした」

早口で声をかけて、店を出る。
電話もしてみたが、応答は無かった。

こんな遅くまで上司と飲むなんて…

楽しくて、連絡忘れてるのかな、と思ったらチリっと胸が痛んだ。
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