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忘れられる、キスを
第28章 警戒
えっちゃん先輩の会社の最寄り駅で降り、メールに書かれていた焼き鳥屋を探す。
金曜日だからか、酔っ払ったサラリーマンと多くすれ違った。
先ほど調べた時に見た住所だと、そろそろ着いてもいい頃だ。
不安になって、辺りをきょろきょろ見回す。

「だ、大丈夫です、帰れます…!」

聞き慣れた声に、はっとして振り返った。
交差点の所で、タクシーに乗り込もうとする一組の男女。
男の方が女を強引に乗せようとしているように見えた。

もしかして、先輩?

嫌な予感がして、気付いたら走り寄っていた。
がっちりとした体格の男に肩を掴まれ、女は今にも車内に押し込まれそうだった。

「あの…!」

咄嗟に声を掛ける。
ぱっとこちらを見た女の人は、やっぱり、先輩だった。
すっかり怯えた表情をしている。
一緒にいた男は怪訝そうな顔をした。

「……君は?」
「え…っと……お、弟です」

ただならぬ雰囲気に、苦し紛れの嘘をついた。
一瞬の隙に、先輩をこちらへ引っ張る。

「俺、近所でバイトしてて…姉がお世話になりました」

呆気にとられる男をタクシーに押し込み、運転手を促して、扉を閉める。
男は何かを言いかけ、憮然とした表情で運ばれて行った。



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