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忘れられる、キスを
第29章 嫌悪
「怖い夢、みたの?」

泣きじゃくる私の背中を、とんとんと叩く。
小さな子どもをあやすように、優しい。

「もう大丈夫。それは、夢でしょ。もう、怖いものはいないよ」

星くんの静かな声に、心がだんだんと落ち着いてくる。
けれども、涙は後から後から溢れて、止まらない。

今は、星くんが隣にいる。

たったそれだけで、大きな安心感に包まれた。
その急激な安堵で、涙をコントロール出来なくなってしまっているのかもしれない。

「我慢しなくていいから。いっぱい泣いていいよ。俺、ずっとこうしてるから」

星くんが背中をさすってくれるおかげで、徐々に呼吸も落ち着いてくる。
ようやく涙の止まる頃には、星くんの胸のあたりはぐっしょりと濡れてしまっていた。

「ご、ごめんなさ…」
「いいから。それより、先輩、着替えよう?汗すごい」

言われてみれば、張り付いたパジャマは、しっとりと湿っている。
のろのろと着替えを出してベッドに戻る。
気を遣って、そっとベッドを抜けようとした星くんの服を掴む。

「なに?」
「ここに、いて」
「着替えさせてほしいの?」

にやっと笑う星くんに思わず顔が紅くなる。

着替えている、ほんの数分でも、離れるのが怖かった。
どうしようもない心細さに、手を伸ばしていた。

「お願い。ここに、いて」

シャツを握る指先に、きゅっと力を込めた。
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