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忘れられる、キスを
第30章 震え
なんだかんだで、俺は、先輩がほんの少し甘えてくれるようになり、浮かれていたようだ。
だから、先輩の見せる泣き出しそうな表情の理由も深く考えようともしなかった。

七月も半ばを過ぎたある暑い日。
ようやく俺のテスト期間も終わり、明日からは夏休み。
レポートの提出やらゼミの課題の締め切りやらで、先輩とはもう二週間以上会っていなかった。
毎週末、ほとんど会いに行っていたことを考えると、かなり長い。

最後のテストが終わり、早速先輩にメールを送ろうと携帯を見ると、少し前に着信があったようだ。
すぐに掛け直してみたが、数回のコール音の後、ぷつりと切れてしまう。

時刻はそろそろ五時。
もう三十分もすればまたかかってくるかもしれない。

そう思い、一旦家に戻った。
シャワーを浴びて、出掛ける準備を万端にする。

今日は珍しくバイトも休みの金曜日だ。
おしゃれなバーなんかで飲んで、そのまま…

『ぎゅって…して』

先輩の、甘えた声を思い出す。

もしかしたら、今日こそ。
淡い期待も抱きつつ、再度電話をかける。
何度もコール音がするが、応答はない。
忙しいのだろうか。
俺が諦めて切ろうとした瞬間。

「もしもし」

知らない、男の声がした。
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