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忘れられる、キスを
第30章 震え
階段を一気に駆け上がって、教えてもらった四階の病室へと急ぐ。
喉がヒリヒリと痛い。

「君、もしかして」
「あ…っは、あの、早坂、さん?」

病室の前の壁に寄りかかって立っていたスーツ姿の男の人がこちらを見る。
三十代半ば、といったところだろうか。
すらりと背が高くて、穏やかな雰囲気。
なんとなく、倉田先輩がダブった。

「深町、さんのお友達…?」
「こ、後輩…で、…あの、先輩は…?」

大丈夫、落ち着いて、と早坂さんが俺を諌める。
病室前のソファに座り、息を整えた。

「あの、先輩は…?大丈夫なんですか?」
「治療も終わって、今は眠っているよ」

ふーっと早坂さんが息を吐いた。
何かを言おうとして口を開け、また、閉じてしまう。

「ちょっと、動転してしまって…俺もどうしていいか分からなくてね……思わず君の電話に出てしまった」
「いえ…むしろ良かったです…早坂さんが出てくれて。
それで、先輩は何で…」

早坂さんはなかなか話そうとしてくれない。

「君は…深町さんの、恋人?」
「え」
「特別な関係なのか、そうじゃないのか、教えて欲しい」

そんなこと、今関係あるのだろうか。

「俺にとっては…特別な人、です」

恥ずかしい。
何でこんなところで、こんなこと言ってるんだ、俺。

「………落ち着いて、聞いてね」

早坂さんが、低い声で言った。
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