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忘れられる、キスを
第31章 傷痕
ぐちゃり、ぐちゃり、と何度も抜き差しを繰り返す。

「俺、早坂のこと嫌いでさあ。同期にあいつがいるから、俺はいつも二番手。あいつは俺の欲しいもの、全部持ってっちまうんだよなあ」

人差し指と中指で舌を押さえ込まれ、苦しさのあまりむせこんでしまう。

「俺、お前が入社してから目ぇつけてたんだけどさ。そんなお前も、早坂が横取りして、部下にして、全然離さない」

歪んだ笑顔が怖い。

「おまけにお前も早坂にべったりだ。俺の担当になったら俺にも懐くかと思ってしばらく様子見てたけど、全然だし。ほんと、ムカつくよな」

佐野さんは、私の唾液に塗れた指をうっとりと眺め、自分の口に入れた。
気持ち悪さに吐き気がしてくる。

「あいつが悪いんだぞ。恨むなら、早坂を恨めよ」
「そ、そんなの…た、ただの逆恨み、です…!早坂さんは、何も…」

何も悪くない、と言おうとしたところで一瞬意識が飛んだ。
引っ叩かれたのだ、と思った直後、ゴツッと鈍い音がして、生暖かいものが、額から流れ落ちるのを感じた。

「あいつが…あいつが悪い…いつも涼しい顔で笑いやがって……なあ、深町。あいつが大事にしてる部下を傷付けたら、どんな顔するかなあ」

腕を掴まれ、立たされる。
そのまま作業台にしていた机に押し付けられた。

「あいつが横取りするからいけないんだよ、深町のこと」

赤い舌が、臍の周りをぐるりと舐め上げた。
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