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忘れられる、キスを
第32章 雛鳥
先輩の家の前まで降ろしてもらい、お礼を言って、早坂さんとは別れた。
部屋に入って、窓を開ける。
閉め切っていた部屋の空気が入れ替わる。

「お昼ご飯、どうする?先輩、食べたいものとかない?」
「うーん…」
「じゃあ、適当に買ってくるよ」

玄関に向かいかけた俺のシャツを先輩が掴む。

「い、一緒に…」
「ん、行こう?」

着替えるから、と外へ追い出される。
待つこと十数分。
ごめんね、と先輩がドアを開けた。
俺が持ってきたぶかぶかのシャツとスボンを綿のブラウスとサブリナパンツに履き替えている。
朝から気にしていた寝癖もすっかり直っていた。

「どこいきたい?」
「駅前の、コンビニいこ」

先輩の手をそっと取ると、きゅっと握り返してきた。
十分もかからない道のりを、手を繋ぎ、ぶらぶらと歩く。
たったそれだけなのに、とてつもない幸福感に襲われる。

「暑いし、アイスも、買っていこ」

先輩は俺にお構いなしに、カゴの中にロールケーキやらムースやらプリンやら、やたらと甘いものを入れていく。

「ふ、太るよ…?」

その量に思わず心配になってしまう。
まあ、もう少し太って、ついでに胸にも脂肪がいけばいいんだけど。

「だ、大丈夫だもん」

根拠なく先輩は断言した。
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