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忘れられる、キスを
第35章 買い物
「えっちゃん先輩って、わりとすぐ手が出るよね…」
「…星くんが変なことばっかりするから」

赤くなった手の甲をさすりながら、星くんが文句を言った。
その手首にはしっかりと先ほどの黒い下着の入った袋が下がっている。
痛みに星くんが声をあげ、注目を集めてしまい、慌てて会計を済ませて店を出てきたのだ。

「もう絶対行かないから」
「えー…」

星くんが不満げに唇を突き出す。
そんな顔しても、だめなものはだめだ。

「いいけど。サイズも分かったし」

B、ね、と嬉しそうに言って、私の手を取る。

こんな一歩間違えばセクハラ紛いの発言も、星くんなら、許容出来てしまう。
手を繋いだり、抱きしめられたり、キスをしたり。
あんなことがあっても、星くんに触れられることは嫌じゃなかった。

それでも、身体は強張って、彼を拒んでしまう。
身体に残る記憶がそうさせるのか、やはり、心が全てを受け入れられないのか。

そんな私の側に、星くんはずっと居てくれる。
星くんが隣にいてくれるだけで、安心できる。

「星くん」
「ん?」
「ありがとう」

何、と不思議そうな顔でこちらを見る。
上手く言葉に出来なくて、きゅっと手を握る。

「一緒にいてくれて、ありがとう」

どういたしまして、と星くんが笑った。
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