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忘れられる、キスを
第35章 買い物
「ね、やっぱり、どっか行かない?」
「どっかって…?」

家に戻ると、星くんがノートパソコンを引っ張り出した。
何やらカチカチとマウスを操作し、検索している。

「のんびり、ゆっくりできるとこ、行こう?」

あ、ここ空いてる、と画面を指差した。
そこは、ここからさほど遠くない、温泉地だった。

「温泉、行くの?」
「嫌?」

ためらうような声に、星くんが私の顔を覗き込む。
温泉が嫌なわけではない。
胸や臍の周りに残された紅い痕を他人に曝すことが嫌だった。

「部屋に温泉付いてるとこにしよう」
「高くない?」
「これ、大学の生協通してるから、結構安いよ。一泊だし、まあまあ」

星くんは言いながら、さくさくと手続きを進めている。
まだ、私は行くと言っていないのに。
この強引さも、嫌ではなかった。

「せっかくだから、今日買ったスカートはいて、さ。なんか美味しいもの食べに行こう」

食欲も、戻さないと、と星くんが髪を撫でる。
優しい手つきだ。

空腹は感じていたが、いざ、食べ物を目の前にすると、食欲が失せてしまう。
星くんに食べさせてもらって、ようやく、飲み込める。
さすがに、そんな状態でいつまでもいるわけにはいかない。

「申し込みしちゃった。いいよね?」
「ん、ありがとう」

星くんはそっと私の顎を掴み、唇を重ねた。
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